【東洋経済メール】教員600人アンケート調査の結果を見て、教職の過酷な実態を思う
□労基法に拘束されない教職の職場の不思議
「東洋経済メール」の実施した2021年8月のこのアンケート調査が公表されて、多くの人は初めて教職の過酷さを目の当たりにしたのかもしれないが、実はこの数十年の間、基本的にはその実態の性格や構造が大きく変わったという訳ではない。
教職の多忙化は、もうずっと前からの課題であって、世の中全般の労働時間に関する監視がシビアーになったのとあまりに好対照な状況が浮き彫りになって来ただけという感は免れない。
問題は多様で複雑だが、その本質的な癌となる原因について明確にしようとすればできない訳ではない。私個人としてはひとことで言うと、「国と文科省が悪い」と言いたい。明治の学校令に始まる、その教育観の古さと教育権(教育課程の編成権)への執拗な執着、変態的固執を辞めなければどうにもならないという異常な状況にあることだけは間違いない。
日本人の弱点は、自分の受けた教育以外に学習や教育に関するイメージが湧かないということ
実は、欧州の先進国での教室の学習風景とは、日本のそれとは格段に違っているということについて、海外生活と学校経験のない人はイメージできないという悲劇がある。
日本の教師でさえ知らないその学習風景とは、基本のカリキュラムにおいて一人一人の個人カリキュラムが主流であるという事実である。
つまり、学習過程がこども本人のニーズに基づいて選択された内容であるのと、日本の場合は大きく異なっている。日本では「教育課程=学習指導要領」という時代遅れの観念を国のトップがいつまでも捨てきれないまま、150年間を無為に過ごしてきた結果のツケとして、今や現場がニッチもサッチモいかない病膏肓の状態になってしまったのである。
この国は、一体何周遅れなのかと思うたびに絶望的という言葉が胸によぎるのは私だけだろうか?
教特法「教員給与特別措置法」の不思議
公務員の中でも、教員の給与だけは「労働基準法」の拘束を受けないという不思議な、そしてバカげた状況がこの国では長く続いている。
このことが、教師の際限のない時間外超過労働を野放図に容認してきた諸悪の根源的温床とならしめている。これは確かである。
学校では不思議な事に、管理職は残業を命じないという建て前となっている。限定的な4項目以外については。
その限定的な4項目とは、以下の通りです。
・校外実習その他生徒の実習に関する業務
・修学旅行その他学校の行事に関する業務
・職員会議(設置者の定めるところにより学校に置かれるものをいう。)に関する業務
(※通常、職員会議は午後の児童生徒が下校した時刻から始まり、勤務時間の終了する
4:45前には終わることになっています。ところが、議題が多すぎたり、内容でモメたり すると、時間通りに終わらないということが起こります。その時に、時間の延長を管理 職が提案するのです。)
・非常災害の場合、児童又は生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする場合
その他やむを得ない場合に必要な業務
これらは、予め予測のつきやすい内容で、管理職が命じて行なう時間外超過勤務です。
ところが、日常問題となっている残業とは、管理職が命じて行なうものではない自主的に行なわれれている教育活動その他事務処理等のための諸々の必要な仕事なのです。
これが肥大化しすぎて、圧迫していることが問題なのです。しかも、法的な建て前として限定4項目以外の「残業の命令」はなかったことになっているので、残業自体も時間としてカウントされていない。しかし、教師は、それぞれの校務分掌の遂行のためにそれらを放棄するわけにはいきません。だから残業してでもやらざるを得ないわけです。
どう思います。このバカバカしい矛盾。
どうせ残業するならば、いっそのこと給特法なんか廃止してしまって、タイムカードの通りに給与を貰うのがスッキリしてはるかにいいのではないかと思います。仕事の全部を労基法の管轄下に繰り入れるのです。
労基法にももちろん問題は大ありですが、それにしても現状よりはましでしょう。このところ給特法の改正が成されて「変形労働時間制」が導入されたようですが、教職員の労働実態からしてあまり意味のない改正と言えるでしょう。夏休みに少々休める日が増える程度で。
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■【東洋経済メール】の「教員600人アンケート」結果について
<学校にいる時間>
・8時間未満 7.0% ・12時間以上~13時間未満 16.2%
・8時間以上~9時間未満 17.7% ・13時間以上~14時間未満 3.8%
・9時間以上~10時間未満 16.0% ・14時間以上~15時間未満 1.2%
・10時間以上~11時間未満 23.3% ・15時間以上~ 1.8%
・11時間以上~12時間未満 13.0%
<帰宅後の持ち帰り仕事>
・ない 34.2%
・1時間以上~2時間未満 30.7%
・2時間以上~3時間未満 15.7%
・3時間以上~4時間未満 6.3%
・4時間以上~5時間未満 2.5%
・5時間以上 5.7%
これらは、労基法の規制の及ぶ範囲内で働く一般的な働き手の人から見れば、現実離れした数値に思えることでしょう。ですが、実はかなり現実をそのまま反映していると思います。
それほどに学校現場というところは異常な職場であるということでしょうか。
職員室のある学校の管理棟は平日であれば毎日のように10時ぐらいまでは灯りが点いているのが普通です。近年では、職場のパソコン内のデータは外には持ち出せないのが一般的です。ですから、職員室で長時間長居して仕事をすることになってしまう。そんな毎日です。
それでも自宅での仕事がないわけではありません。アンケートからも分かるように約6割の人は自宅でも何らかの仕事をしている状態です。どうしてこんなことが当たり前の状況となってしまったのでしょうか。
それには、いろんなことが考えられますが、まず第一には教師の仕事の範囲が明確に規定されていないというところからくるものです。授業や成績処理はもとより、掃除、給食、生徒指導(生活指導)、安全教育、さらには教科にはない「◎◎教育」と名の付くものは総てがその守備範囲です。
また地域社会からの要請、社会状況の変化による新しく学習指導要領に盛り込まれた内容。例えば小学校の外国語教育や道徳の教科への移行、プログラミング教育等々揚げればきりがありません。この何十年に渡って、じりじりと内容が増え続けてきたのです。
授業の終了後、中学校・高校の体育館では部活が行なわれ、それぞれの部の担当者は指導にあたっています。部活指導者はおおよそ2つのタイプに別れます。部活指導が重荷でストレスになっている人と、逆に部活指導に燃え、部活命で熱く頑張っている人です。
通常、平日の授業後の部活ではほとんど報酬というものは発生しません。言わばボランティア状態に近い勤務内外の仕事です。土・日の練習試合などの長時間に渡る引率・指導などで申告すれば、いくらかの報酬がつくこともあるようです。
「教員が負担に感じていること=力を入れて勉強していること」について
これは、今時の教員が時代に乗り遅れないために、そして新しい指導分野を含むものとして勉強せざるを得ないものと受け止めたほうがいいと思います。
【東洋経済メールのアンケート】から(複数回答)
1 新学習指導要領 (39.5%)
2 ICT教育 (35.3%)
3 特別支援教育 (27.7%)
4 不登校児童・生徒支援 (21.0%)
5 SDGs教育 (19.0%)
6 キャリア教育 (17.5%)
7 道徳の教科化 (17.2%)
8 いじめ問題 (16.8%)
9 プログラミング教育 (15.5%)
10 外国語教育 (14.8%)
(以下省略)
トップ10をあげましたが、複数回答でこれだけを合計するとゆうに200%を越えますので、いかに教師がいろいろな事に関してストレスを感じながら日々活動しているかが分かると思います。
この10の項目はどれもシビアーな問題ばかりです。直ぐすぐに解決しなければ間に合わないというほどのことはないものは、5 SDGs教育と 6 キャリア教育 くらいなものであとは、今日明日に差し迫った問題だとも言えよう。
・「1 新学習指導要領」
日本の教育システムでは、学習指導要領は決して批判してはならない金科玉条なるものですから、総ての授業者にかぶさる教科書至上主義の奴隷とならざるを得ない毎日です。
しかも、これが約10年に一度は書き換えられ、其の度に内容が増える。教師たちはそれに対応しなければならない状況にあるわけです。
時代遅れの状況で、このこと自体実は本来ナンセンスの極み国家権力の「教育ファシズム」だと言えなくもありません。中国やシンガポールなどアジア型の共通点と言えるかも知れません。こんな状況は、欧州先進国ではありえません。なぜなら教育権がすでに現場教師に降りてしまっているからです。
・2「ICT教育」
一言で言えば教育のデジタル化ですね。コロナ禍にあっても日本の小・中公立学校ではリモート授業ができなかったという遅れを露呈しましたね。因みにフィンランドでは、休校三日目にはリモート授業が始まったということを聞きました。
学校のどこにでもWi-fiが飛びかい、児童・生徒の多数が一度に機器でネットに繋げてもサーバーがダウンしないような環境が保障されていないといけません。お金がかかります。
・「3 特別支援教育」
この数十年は特別支援学級が増え続けています。その大きな要因は発達障害児が増えたことによるものです。ここで問題なのは学級の総ての子どもが発達障害の特性を理解できない事からくる共有の難しさです。
実際に、見た目にはどこに障害があるのかが解りにくいからです。そこで、コミュニケーションなど対人トラブルが多発することになります。
・「4 不登校児童・生徒支援」
確かに増えています。要因は一つではなく複雑のようですが、学校側の問題も大きいことは間違いないと思います。
・「7 道徳の教科化」
以前も時間枠はありましたが、道徳心を教科にして子どもの何をどう評価するのでしょうか?ナンセンスです。評価されないからこそ、息抜きの時間として毒にも薬にもならないこの時間を楽しめたものでした。
また、教師たちはこの時間を利用して学級の子どもの実態に合った形で、必要な仲間づくりのアプローチなどをクリエーティブに行なってきたのです。
教科化は、通知表の評価の重荷を無駄に増やしただけのことです。
・「8 いじめ問題」
人権にかかわるこの深刻な問題に対して、お国の考える「道徳」の概念の実際には役に立たないこと甚だしいことこの上ないといった感じです。
これは「自殺」などの大問題にも繋がりかねないので、生徒指導や生活指導の観点からではなく「仲間づくり」の観点からのアプローチが必要です。全国の教師たちの実践は必ずあるので、ネットワークで繋がるのもいいのではないでしょうか。
・「9 プログラミング教育」「10 外国語教育」
時代の流れですか。 どちらも難しそう。日本語もままならない私など「外国語」を上手く指導するなんて、とてもとてもという感じです。
【負担業務】と【業務・ストレス・悩み】の比較
【東洋経済メールのアンケート】から(複数回答)
【負担業務】 【業務・ストレス・悩み】
1. 授業準備 (64.7%) 1.保護者・PTA・地域などへの対応(38.5%)
2. 会議・打ち合わせ (58.5%) 2.長時間勤務 (36.3%)
3. 事務・報告書作成 (53.7%) 3.教員間の人間関係 (33.7%)
4. 児童・生徒指導 (40.7%) 4.学校や児童生徒を取り巻く環境 (32.5%)
5. 成績処理 (38.3%) 5.休日・体力の少なさ (28.2%)
6. 学校行事の準備 (36.2%) 6.学習指導 (21.5%)
7. 保護者対応 (34.8%) 研究等の時間確保 (21.5%)
8. 学年・学級・学校運営(33.2%) 8.公私の区別がない (20.8%)
9. 部活動・クラブ活動 (24.0%) 9.とくにストレスや悩みはない (16.2%)
10. 研修 (23.5%) 10. 部活動対応 (15.7%)
(※小学校に部活動はありません)
この二つの似た項目で左右に共通した上がった項目は意外に少ないと感じられます。
「部活動」関係の項目が共通しているくらいです。ストレス・悩み関係は、業務以外のことにもたくさんのことが解ります。
それにしても、日本の公立学校で働く教員ならば、多かれ少なかれみんながやっていることです。これを負担と感じるか否かの問題もありますが、どれもかなりのヘビーさが伴うものばかりではあります。
「事務・報告書」には無意味とも思えるものがあるなど、減らすべき余地があります。
「児童・生徒指導」の分野は欧州先進国に比べて肥大化していると思います。
「成績処理」は緻密な数値表記と無駄な文言表記、どちらも年々負担が大きくなってきたものです。
「学校行事」、この国は多すぎます。
「保護者対応」これは、今や下手うつととんでもないことになるというケースがあります。
「部活動」これは先進国の教師の仕事にはない分野です。
他、省略
サイト運営者の泪みつるです。
私自身、このアンケートについて強い共感を抱き記事にしたという経緯があります。
それは私の職業生活の出発点が教職だったからです。
日本人の多くは、自分の経験してきた学校教育の記憶をもとに「教育」というもののイメージを想定します。それは教師自身もそうあることがほとんどであり、日本人の大多数は世界には全く違う教育のアプローチ方法があることを知りません。
例えば欧州などでは児童・生徒の集団行動の折りには整列(並ばせる)という行為はさせないそうです。それは整列が軍隊でしかしない行動だからです。日本では野外での学習行動には必ず整列が伴います。たった一つの例ですが事程左様に違うものなのです。
フランスの教育事情について書かれた記事を読んだのですが、感じたのは教師の仕事も他の仕事同様に「ジョブ型」なのだなぁということです。つまり、教師の仕事の範囲(内容)が明確に決まっていてそれ以外のものは、必要ならば別の職種の人が行なうシステムだということです。例えば、「給食」などは初めから教師の仕事内容ではない…等々たくさんの違いがあるようです。
この国では、一般企業でも新採の採用にあたって仕事内容の規定のない「総合職」としての採用が主流ですが、欧州などではそれは少ないものです。
日本の教育の未来を考えるうえでも知っておきたいことが他にもたくさんあるようですね。
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