企業研究:半端ない働き方改革を実現している会社はあるのか?
サイボウズ株式会社の挑戦
「100人いたら100通りの働き方があっていい」という多様性を尊重する考え方が、企業として成り立つのだろうか?これまでいろいろな企業を観察してきた経験を踏まえると、正直言って疑問に思うことは否めない。
しかし、それがあるというのだ。サイボウズという企業向けのソフトウェアを開発販売している会社のようだが、20年ばかりのベンチャーだからそれができるのだろうか? それともIT関係企業だからこそそれができるのだろうか?
ともかくはその企業の働き方改革の中身を少し覗いてみることにしよう。そこでは以下のような内容を自負しているようだ。
<風土>
・多様性と個性の重視
・公明正大であること
・議論することを大事にすること
・率先垂範の精神
<制度>
・選択型人事制度(2007年~)
※この会社では、社員のライフステージの変化に応じて以下のような働き方の選択をできるようにしたというのです。そのワークスタイルの多様な選択を可能にしたことで、離職率が28%から4%以下へと急減したというのですから、その効果の大きさが伺われます。
採用した優秀な人材が職場に定着して、強力なチームワークを発揮できるということは、生産性を向上に大きく寄与することでしょう。
・在宅勤務制度あり(2010年~)
・副業することに問題なし
・育児休暇、介護休暇は最長6年間(2006年~)
・勤務時間や場所を、現在9種類から選択できるという
・「ウルトラワーク」制度(2012年~)
※選択した働き方から異なる働き方を単発ですること。
・育自分休暇制度
※35歳以下で転職や留学など、環境を変えて自分を成長させるために退職する人を対象として、最長6年間は復帰が可能というもの。
・子連れ出勤制度
※「学童保育に行きたがらない」、「子どもの預け先が無い」などの問題解決のために開始されたというもの。
<その他の制度>
・人事制度策定プロセス
・社内コミュニケーション活性化の実施
・部活動支援
・誕生日会
・仕事Bar
・部内イベント支援
・感動課の設置
・「説明責任・質問責任」の考え方
<ツール>
これら、働き方の多様性を可能とするにはそれなりのツールを利用してその環境を作ることが前提となる。例えば、出勤しない自宅での仕事をすると選択した場合に、そこにバーチャルな仕事場環境を作ることになる。
そこで、ITベンチャーの得意な技術が力を発揮する。メールや情報の共有により、仕事の属人化を避けて、グループ化することで一つの仕事が◎◎さんだからできるから、グループで協力できる体制ができあがったとされる。
情報の共有が進めば、在、不在にかかわらず社員全員のリアルな情報を共有できているということです。そこまでツールが機能できているというのですから驚きです。
【社外からの評価】
2008年:「子育てサポート認定事業主マーク」を取得、「第3回にっけい子育て支援大賞」受賞
2011年:「就活AWARD2013」働きやすさ・社員満足度項目で受賞
2013年:「平成24年度東京ワークライフバランス認定企業」に認定
2014年:「ダイバーシティ経営企業100選」に選出
2015年:「第15回テレワーク推進賞」受賞
2016年:「テレワーク先駆者百選 総理大臣賞」受賞
2018年:「働きがいのある会社 女性ランキング」 2年連続1位
等々、そうそうたる受賞歴であります。
【基本的な企業活動】
ソフトウェアを利用したコラボレーションツール事業
サイボウズグループは、チーム・コラボレーションを支援するツールを開発・提供しています。グローバルに拠点をもつ企業や公共団体などの大規模チームから、企業間プロジェクト、ボランティア、家族などの小規模チームまで幅広いお客様にご利用いただいています。近年はソフトウェアのライセンス販売に加え、サーバーやセキュリティなどの運用環境も提供するクラウドサービスを実施しています。
オフィス |
東京オフィス
|
従業員数 | 598名(2017年 連結) 414名(2017年 単体) |
利益 |
2017年12月 連結 売上 9,502百万円 2017年12月 個別 売上 9,326百万円 |
東証一部上場 |
【主力製品】
□kintone(ビジネスアプリ作成クラウド)
□サイボウズOffice10(中小企業シェアNo.1)
□Garoon(大企業向け管理機能を搭載)
□cybozu Live(チームを生み出すグループウェア)
□メールワイズ(届いたメールを複数人で共有できるツール)
その他
これら、この会社の主力商品は、どうやら社内の情報共有やグループ力の向上を促進するための便利なツールを開発販売しているからこそ人気がある模様です。そして、それを自らの会社が具現化しているのです。つまり、働き方を多様性することで、生産性は向上するのだということを証明してみせているということのようです。
このように、この会社の確立している制度を単に羅列してみただけでも、その先進的なことが私たちにも伝わってきます。今回成立した「働き方改革関連法案」などと比べて、国の政策のあまりもの時代遅れ状況が浮き彫りになりますね。国会議員は国民に対して恥ずかしくないのでしょうか。
この国は、2018年6月にやっと1/4歩ほどの働き方改革のスタートを歩み始めた遅れた国です。よく比べてこの国の将来を占ってみてはいかがでしょうか。
サイボウズ(株)社長 青野 慶久氏の講演を聞く
ラッキーな出来事でしたが、新聞記事を見て某県(女性活躍推進会議)主催の講演会に参加してきました。講師がサイボウズ社長、青野慶久氏だったからです。
青野氏の話は、饒舌でとても解りやすかったです。熱く「働き方改革」の欠くべきポイントについて話をされましたが、その内容は経営者の倫理面の高潔さや精神論などではなく、はるかに具体的で建設的な内容でした。
社員数770名と話されましたから、2017年(連結)時から、170名ほど増えているようです。2~3年内には1,000人を超える見通しとのことで、それだけ急速に伸びている会社であろうと予想できます。
そこには、行政や多くの企業が模範とすべき明確な方向性がありました。以下、この会社がどのように上記のような結果を実現できたのかということも絡めながら、私の印象に残った青野氏の話を箇条書きにしてみたいと思います。(内容がとても多かったので、全体として一つの形にまとめることが出来ませんので。)
■働き方改革で重要なことは、「改革」ではなくて「多様化」なのだという話でした。
なぜ、そのようなことに至ったかの最初の時点では、サイボウズ社自体の離職率がとても高い状況にあったというのです。最高28%の離職率で、その度に新しく採用してトレーニングを数か月間行っていると、また別のだれかが辞めていくという状況だったというのです。
・「給料を上げてやる」といっても離職が止まらない理由を社員に聞いてみると、それぞれ人様々だったことから、仕事内容の多様化に舵をきったと言うのです。「一人一人のわがままを丹念に拾って」→「論議して」→「制度化する」ということの繰り返した結果が今に至るということです。
・「働き方改革」を論議すると経営者側はよく「生産性の向上ができるか」を気にするが、そこが間違っているというのです。必要なことは社員の「幸福度」を上げることだと言われました。青野氏の話の文脈はつぎのような事でした。
◎社員の「幸福度」を上げること=「働き方の多様化を制度とすること」
◎働き方がチーム戦へと進化する(個人の俗人化→チーム戦へ)
◎すると、生産性が向上する(サイボウズがそれを証明している)
■企業の「風土」作りの重要さ
企業風土として、
・公明正大であること
嘘をつかない仲間になること。そこに信頼が生まれチームとして成長する。(東芝、三菱、神戸製鋼、財務省など、嘘ばかりで公明正大ではない)
・自立と論議、そしてフレームワークによる提案をし合えるチームとなること
■青野氏自身が、育児休業を三回(三人の子どもさんごとに)取った経験から気づかされたことを語られました。男性の育児への参加こそが、少子化に歯止めをかけ、来るべき人手不足の時代を緩和できる要因であることを力説されました。同社では男性の育休取得は50%程であるとのこと。
(社会をリードする男性リーダーは育児休業を取ったことのない世代であり、期待できないとも)
■まとめとして
大事なのは「改革」ではなくて、「多様化」である。多様化を実現でいるツールと公明正大な風土をつくること、個人からチーム戦への方向が大事で、迷ったらメンバーに聞け!ということのようです。
<青野氏のプロフィール> ・1971年、今治市出身。大阪大学工学部卒、松下電気(現パナソニック)へ就職。 ・1997年、松山市でITベンチャー企業のサイボウズ株式会社を立ち上げる。 ・「働き甲斐のある会社」として有名となる。 ・社名の由来は、「サイバー」「坊主」の複合語であるとのことです。 |
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